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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

「わたくしこんな事をしていると、あなた風を引いておしまいなさるわ」細い指をちょいと縁に衝いて、立ちそうにする。

「這入ってお締めなさい」

「好くって」返事を待たずに千代田草履を脱ぎ棄てて這入った。

障子はこの似つかわしい二人を狭い一間に押し籠めて、外界との縁を断ってしまった。しかしこういう事はこれが始めではない。今までも度々あって、その度毎に純一は胸を躍らせたのである。

「画があるでしょう。ちょいと拝見」

純一と並んで据わって、机の上にあった西洋雑誌をひっくり返して見ている。

お召の羽織の裾がしっとりした jet de la draperie をなして、純一が素早く出して薦めた座布団の上に委積わって、その上へたっぷり一握みある濃い褐色のお下げが重げに垂れている。

頬から、腮から、耳の下を頸に掛けて、障ったら、指に軽い抗抵をなして窪みそうな、色の肌の見えているのと、ペエジを翻す手の一つ一つの指の節に、抉ったような窪みの附いているのとの上を、純一の不安な目は往反している。

風景画なんぞは、どんなに美しい色を出して製版してあっても、お雪さんの注意を惹かない。