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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
その作者の名が三枝茂子であった。三枝という氏は余り沢山はなさそうなので、ふいと聞いて見る気になって、「茂子さんですか」と云うと、殆ど同時に女が「大村先生でいらっしゃいましょう」と云った。それから会話がはずんで、種々な事を聞くうちに、大村が外国語をしているかと問うと、独逸語だと云う。独逸語を遣っている女というものには、大村はこの時始て出逢ったのである。
懇親会の翌日、大村の所へ茂子の葉書が来た。又暫く立つと、或る日茂子が突然大村の下宿へ尋ねて来た。Sudermann の Zwielicht を持って、分からない所を質問しに来たのである。さ程見当違いの質問ではなかった。しかし問わない所が皆分かっているか、どうだかと云うことを、ためして見るだけの意地わるは大村には出来なかった。
その次の度には、Nicht dochと云う、Tavote の短篇集を持って来た。先ず「ニヒト・ドホはなんと訳しましたら宜しいのでしょう」と問われたには、大村は少からず辟易したと云うのである。これを話す時、大村は純一に、この独逸特有の語を説明した。フランスの point du toutや、nenni-d に稍似ていて、どこやら符合しない語なのである。