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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

そうして、他愛もなく手品などに見入っていることが、この頃の彼にとっては、得難い休息でもあったのだ。

番数が進んで、日が暮れる頃から、段々大奇術に這入って行った。座長の手品師は、いつも鈴のついた尖り帽子を冠って、顔を白粉で塗りつぶし、西洋の道化服を着て登場したが、田舎廻りにも拘らず、その手並みの見事なことは、大人の二郎でさえ余りの不思議さに、あっけにとられる程だった。

水中美人、骸骨踊り、笑う生首、と演芸は一幕毎に佳境に這入って行った。見物達は、もうすっかり、奇怪な夢の国の住民になり切って、酔った様に舞台の神技に見入っていた。

二郎は何も知らなかったけれど、若し読者諸君が、この手品の見物の中に混っていたならば、舞台の上の一人物を見て、アッと叫声を発する程も、驚き恐れたに相違ない。何ぜといって、水中美人の演芸で、大きなガラス製タンクに横わった女、テーブルの上に、チョン切られた生首をのせて、ゲラゲラ笑った女は、諸君が亡き明智小五郎と共に、品川沖の怪汽船の中で出会ったことのある、あの怪物の娘の、文代という美しい少女であったからだ。して見ると、座長の道化服は、あの時明智に恐ろしい毒薬の注射針を擬した、復讐鬼その人であろうか。