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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
明るい場所へ引出して姿を見れば、道化服の首領ではない。古めかしいタキシードを着込んだ奇術助手だ。
「座長はどこにいる」
明智が男の腕をねじ曲げて尋ねる。非常手段だ。男は存外あっけなく閉口してしまって、どもりながら答えた。
「あすこ、あすこ」
指さす方を見ると、背景で出来たトンネルの向側に、ボンヤリと見える、道化姿。
三人は男を捨てて、その方へ忍び寄る。先に立つのは若い道具方だ。
向うの道化服はいつまでも同じ場所に立っている。妙なことには、何の為か両手を翼の様に伸ばして、ゆらゆらと動かしている。
「オイ、待った」
明智がやっと気附いて叫んだ時には、もう先頭の道具方が相手に飛びかかっていた。そして、ひどく額を打って跳ね返されていた。
それは奇術に使う大鏡だった。どこかにいる道化服の怪物が、斜めになった鏡に写っていたのが、あたりが薄暗い為本物と間違ったのだ。
本物はどこにいるのだ。
二人の道具方が明智の視線を追って見上げると、意外にも、曲者は舞台上の天井に張り渡した針金の上を、両手で調子を取りながら、渡っている。道化者の滑稽な綱渡りだ。
何という奇抜な隠れ場所。