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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
視野が狭いので、もう一人の男は見えぬが、多分怪物と向き合って、同じ様に酒を呑んでいるのであろう。
だが変なことに、賊はただ盃を嘗めるばかりで、一向話をする様子がない。ただああして二人が睨み合っているのかしら。それとも、若しや、……
「こいつは油断がならぬぞ」と立ち直ろうとした時には、已に遅かった。グーッと背中を押して来る固いもの。
「手を上げろ」
押しつける様な声。いつの間に来たのか、賊の部下が、両手にピストルを持って、その筒口を明智と二郎の背中に当てがっていた。
不意をつかれた両人は、ただ命ぜられるままに手を上げる外には、何を考える暇もなかった。
「もう出て来てもよござんす。二人の奴は虜にしました」
男が呼ぶと、ドアが開いて怪物が姿を現わす。悪魔と名探偵の二度目の対面。だが両人とも特別の感情を示すでもなく、平気な顔を見合わせた。
「これはよく御訪問下すった。実は、こういうこともあろうかと、心待ちにしていた訳ですよ」
賊はニヤニヤと不気味に笑いながら挨拶した。
流石に明智は答えない。冗談に応酬するには余りに不利な立場だ。
「ところで、あなたを何とお呼びしましょうかね」