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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

一郎がおびえて叫んだ時には、ライターはもう、螢火の様な果敢ない光になっていた。

「この上光までなくなっては耐らない」

二郎が唸る様に云った。

「アア、どうしましょう。怖いわ」

妙子は父親の膝にすがりついた。

だが、消え行く燈火を、どうとり止めることが出来よう。螢火が淋しく二三度瞬いたかと思うと、ライターはとうとう消えてしまった。

闇と寒さと、墓場の様な恐ろしい静寂の中に、四人の者は、お互の身体に触れ合うことによって、僅かに一人ぼっちでないのを確めながら、どうする智恵も浮ばず、黙りこくっていた。

「誰かマッチを持っていないか。一本でもいい。お前達の顔を見ないで、こうしているのは耐らない」

善太郎が我慢がし切れなくなって云った。

一郎も二郎も、その言葉に励まされて、ポケットというポケットを探して見た。

「アア、あった。だが、たった三本です」

二郎が情ない声で云った。

「あったか。早くつけてくれ。早く暗闇を追っぱらってくれ」

シュッという音がしたかと思うと、部屋中が日の出の様に明るくなった。闇に慣れた目には、マッチの光さえ非常にまぶしく感じられた。

四人は、その光の中で、これが最後という様に、お互の顔を眺め合った。