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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
「大変です。早くしないと間に合わぬかも知れません。今庭の池を見て来ましたが、水がグングン減っているのです。玉村さんはやっぱり土を掘って逃出そうとして、悪人の罠にかかっておしまいになったのです」
彼女は青ざめた顔で、早口に云い捨てて、例の客間の隣の妙な部屋へ走って行った。一同もそれに続く。
「この押入れの中に、穴蔵の入口があるのです」
文代は説明しながら、自分で襖を開いたが、一目その中を覗くと、アッと叫んで身を引いた。
アア、何という大胆不敵の怪物であろう。彼は已に警官隊の来襲を察して、単身この穴蔵の入口に敵を待伏せしていたのである。
押入れの中の上げ蓋が二三寸開いて、その下から、蛇の鎌首の様な人間の片腕が覗き、恐ろしいブローニングの筒口が、じっとこちらを狙っているのだ。
明智も刑事達も、この怪物の死にもの狂いの抵抗には、流石にゾッとして、立ちすくまないではいられなかった。
× × × × ×
穴蔵の闇の中では、親子三人のものが、お互に手をとり合って、刻一刻増して来る水の中に、何とせん術もなく立ち尽していた。
妙子は已に溺れてしまったのか、いくら呼んでも答はない。