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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

父の腕が叩きつぶされたかと思うと、流石に耐え難い苦痛を感じたのだ。

腕はひしがれた。ピストルは手を離れて押入れの外へふっ飛んだ。

ソレッと云うと、一同ひしがれた腕の上に折り重なる。と突如として起る哄笑。

「畜生め、一杯食わせやがった」

竹竿の武器を考えついた刑事が口惜しさに、歯をむき出して叫んだ。

怪物の腕と思ったのは、手袋に芯を入れて、巧みに拵えた贋物で、ピストルは子供のおもちゃに過ぎなかった。それが、暗い押入れの中故、はっきり見分けがつかなかったのだ。

「馬鹿馬鹿しい。こんな案山子の為に、二十分も無駄に費してしまった」

それが賊の目的であった。万一救いの人々が駈けつけた場合ここで暫く食いとめて置けば、その僅かの相違が、穴蔵の玉村親子に取っては、生死の瀬戸際だ。念には念を入れた賊の用意である。

案山子と分ると、刑事達は素早く上げ蓋をはねのけ、先を争わんばかりに、穴蔵へと下って行った。

だが、その階段の下には、第二の関所が待構えている。積上げた煉瓦は、仮令完全に固っていなくとも、それをとりのけるには、随分手数がかかる。それから鍵をかけた鉄扉だ。刑事達の力で、果してこれを打破ることが出来るであろうか。