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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
明智は生れてから、こんな恐ろしい人間の表情を嘗つて見たことがなかった。
絶望の悪魔は、両手で頭を抱えて、ヨロヨロと椅子に倒れ込んだ。そして、血走った目を不気味にキョロキョロさせて、取るべき手段を思いめぐらすと見えたが、やがて、徐々に奇妙な安心の色が浮んで来た。彼は激情の余り、ついそれを胴忘れしていたのだ。
「だがね、探偵さん」
源造は考え考え切り出した。
「君は、いつかの森ヶ崎の西洋館を忘れたかね。あすこで一体どんなことがあったのだろう。エ、思い出して見給え。ホラ、君と俺と妙な取引きをやったことがあるじゃないか」
だが、それにも明智は驚かなかった。
「ウン、覚えていますよ。あの時は君の方に妙子さんという人質があって、結局僕の負けになったのですね」
オヤ、こいついやに落ちついているな。と思うと、源造は少し不安になって来たが、屈せず喋り続ける。
「ホラ見給え。あの時と今と、一体どう違うのだ。君は、妙子が今どこにいるか、知っているのかね」
「知っていますとも」明智はニヤニヤ笑った、「向うの小部屋に閉め込んであるというのでしょう。ところが、僕はあの部屋の鍵を手に入れたのですよ。