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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

額か胸か、それともこうして笑っている口の中へぶち込むかね」

明智は云いながら、額を、胸を、口を、指さして見せた。

七人の者は、相手の余りの大胆さに気を呑まれて、やや暫く立ちすくんでいたが、

「ぶっ放せッ」

一人が叫んで、引金を引くと、一同気を取り直して、カチン、カチンと発砲した。

「オヤ、妙だね。カチンカチンと云ったばかりで、丸が飛出さぬ様だね。ハハハハハ、もう一度やってごらん」

「うぬ」

「畜生ッ」

てんでに叫んで、又カチンカチンとやって見たが、やっぱり駄目だ。

「君達は、僕がこの船に来てから、今まで何もしないでいる程ボンクラだと思うのかね。そいつはちっと不服だぜ。僕はすっかり戦闘準備をととのえて置いたのだ。それでなくて、一人ぽっちで、船一艘乗取ろうなんて、出来ない相談だからね」

アア何という恐ろしい探偵だ。彼は単身賊の汽船をとりこにしようとしているのだ。

「見給え。ここに細引が積んである。これが今に君達の身体へまきつこうという訳なのだ。この部屋へ逃込むことを見通して、ここに捕繩まで用意して置いたのだぜ」

賊共は、余りのことに開いた口がふさがらぬ。悪人であればある程、段違いの相手に出会うと、却って意気地なくへこたれてしまうものだ。