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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
――庭の池の亀を見ていると、その可愛らしい亀の頭がニューッと伸びて、小豆色のまだら蛇になった。
蛇嫌いの善太郎氏は「ギャッ」と云って、逃げ出したが、走っても走っても、蛇の頭がすぐうしろにあるのだ。そいつは亀の胴体から、紐の様に無限に伸びて来るのだ。
庭の向うに一郎、二郎、妙子の兄妹が笑い興じていた。善太郎氏は「助けてくれ」と叫びながら、その中へ入って行った。そして、三人に囲まれながら、うしろを見返ると、細い紐の様な小蛇が、いつのまにか、胴廻り一抱えもある様な、庭一杯の大蛇に変っていた。
「アッ」と思う内に、親子四人とも、その大蛇の為に、グルグル巻きに巻き込まれてしまった。むせ返る様な蛇の体臭、ヌルヌルした肌触り。
大蛇は、徐々に四人を絞めつけながら、空一杯の鎌首をもたげ、火焔の様な舌をはいて、頭の上から、ただ一呑みと迫って来る。……
我れと我が悲鳴に、ヒョイと目を開くと、ベッドの中でビッショリ汗をかいていた。今のは夢であったのだ。
「アア、夢でよかった」
善太郎氏はホッと安心して、寝返りをしようとしたが、オヤッ、何だか掛け蒲団の上に乗っているものがある。