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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
殊に、七尺近い大男などには、直接にも間接にも知合いはない筈だと断言し、長年の召使の婆やなども、この玉村氏の言葉を裏書きした。
流石戦場往来の古つわもの波越鬼刑事も、嘗つてこの様な幻妙不可思議な事件に出くわしたことがなかった。誰が殺したか、何ぜ殺したか、何ぜ首丈けを切断して持去ったか、何の必要があって、横笛を吹鳴らしたり野菊の花を撒いたりしたか、どんな方法で密閉された屋内に忍込み、更らに密閉された寝室へ入ることが出来たか。又そこからどうして逃出したか。凡て凡て真暗である。全く想像の下し様もないのである。しかも僅かに分っている手掛りと云えば、怪談か夢物語の外のものではないのだ。
「果して、この事件は明智小五郎の領分だわい」
波越氏は私にそう考えた。で、彼はそのまま警視庁に帰ると夜の明け切るのを待って、何はさて置き、先ずS湖畔の明智の宿へ電話をかけた。早く帰京する様に催促する為だ。
ところが、電話が通じて、ホテルの支配人の話を聞くと、彼はアッと仰天してしまった。明智は間違いなく昨日予定の列車で帰京したという。しかも上野駅に出迎えた福田邸の自動車は空っぽで帰って来たではないか。