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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
といって首丈けが正面を切って、遊泳の形で流れる土左衛門なんて無いことだ。
だが、間もなく、この疑問のはれる時が来た。その泳ぎ手が十間五間と橋の下に近づくに従って、人々の目は真上から眺める位置になり、今まで遠方の為見えなかった水面下の秘密なカラクリが分って来た。それは普通の土左衛門でもなく、そうかと云って生きた泳ぎ手では猶更らなかった。
読者は既に已にそれが何物であるかを悟り、筆者の悠長な書き振りをもどかしく思っていられることであろう。如何にも御想像の通りです。これこそ、二日以前、彼の寝室から消去った福田得二郎氏の生首の外のものではなかったのです。
ではその重い首が、どうして水面に浮んでいたのかと云うに、真上から覗いて見ると、首の下に細長い、船の形をした木切れが、水に歪んで、ヒラヒラと見えている。つまり、福田氏の生首は、小型の舟に乗せられ、その舟は首の重みで水面下に沈んだまま、ユラリユラリと流れに従って漂って来た訳だ。
見物達の驚きは申すも管である。彼等はこんな不思議な生首舟を、未だ嘗つて見たことも聞いたこともなかった、ワーッと云う一種異様の鬨の声が上った。