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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

イヤイヤ、そんなことよりも、僕は君が気に入ったのだ、君の四十余年の陰謀と僕の正しい智慧とどちらが優れているか、それが試して見たいのだ。僕はどうしたって、ここを抜け出して見せる。繩目が何だ。錠前が何だ。そんなものは僕にとって、全く無意味であることを、君は知らないのか」

「畜生ッ」道化面が絞り出す様な声で叫んだ。

「じゃ貴様こんなに頼んでも、ウンと云わないのだな。どうしても、俺に無駄な殺生をさせる気だな。それ程命が不用なのか。……だが、明智君、もう一度考え直してはくれまいか。俺は使命の為には、君の命をとる位何でもないのだ。併し、罪も報いもない人を殺しては、俺の気持がにぶる。先祖以来の大使命の手前恥しい。頼みだ。頼みだ」

薄暗い石油ランプの光線なので、明智は気づかなんだけれど、道化面の厚い白粉を溶かして顔一面に膩汗の玉が浮んでいた。

悪魔の所謂使命とは何を意味するかはっきりは分らぬけれど、福田氏の外になお数人の命を奪うことであるらしい。仮令如何なる理由があるにもせよ。それは許すべからざる大罪だ。

明智は如何にしても、その様ないまわしき使命に組する気にはなれぬ。