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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
続いて起る銃声一発二発、ただ闇の事故仲々命中はしない。
彼はこの幸運を利用して、何とか死地を脱する工夫はないものかと、思わず両腕に力をこめると、不思議不思議、繩がズルズルとゆるむではないか。その時、明智の頭にパッと電光の様にひらめいたものがある。
何ぜか分らぬ。併し、明智を助けたのは文代と呼ばれる賊の娘なのだ。さっき手先に鋭い痛みを感じたのは、彼女が刃物で繩を切った力が余って明智の皮膚を傷けたのだ。彼女は繩を切った上、更らに彼の逃走を容易ならしめる為に、ランプを打ちくだいたのだろう。
「蝋燭だ。文代、蝋燭を持って来るんだ」
道化師が慌てふためいている間に、明智は懸命の努力で遂に繩を抜け出すことが出来た。
黒い疾風が何かにぶつかりながら、室を飛出し、闇の廊下をめくら滅法に走った。そのあとを追って、「逃げた、逃げた」という狼狽の叫声。
幸い行手に別段の障害物もなく、廊下を抜け切ると、夜ながらパッと眼界が開けた。空には一面に星が瞬いている。明智はとうとう家の外へ出たのだ。
だが、背後には、已に、入り乱れた追手の足音が迫り、流弾ばかりだけれど、ピストルの釣瓶撃ち。