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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
膝の上に熱い涙がひっきりなしにしたたり落ちた。
「およしなさい。泣くなんてみっともないわ。意気地なし、意気地なし」
「黒トカゲ」はそれを見て、妙に甲高い声で叱ったが、彼女もいつの間にか早苗さんのそばにくず折れていた。そしてこの妖婦の頬にも、止めどもない涙が流れていた。
無二の好敵手を失ったさびしさか、それとも何かもっと別の理由があったのか、女賊はいとも不思議な悲しみに、うちひしがれていた。
いつのほどにか、誘拐するものとされるもの、「黒トカゲ」とその餌食、敵同士の二人が、まるで仲のよい姉妹のように手を取り合って泣いていた。悲しみの意味はそれぞれ違っていたけれど、悲しみの深さ激しさは、少しも変りがないように見えた。
黒衣婦人は、五つ六つの子供のようにワアワアと声を上げて泣いた。すると、早苗さんも誘われて、同じように手ばなしで泣きはじめた。なんという意外な、非常識な光景であったろう。今彼女らは二人のいたいけな幼女でしかなかった。それとも、二人の無邪気な野蛮人でしかなかった。あらゆる理知も感情も、まったく影をひそめて、ただ悲痛の感情だけが、痛々しいまでに露出していた。