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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
「アッ、いけない」
愕然として逃げ腰になるすきもなく、人形どもがムクムクと起き上った。衣裳だけが変っていたのではない、中身までも全く別物と置きかえられていたのだ。そこには剥製人形ではなくて、生きた人間が、さも人形らしいポーズを取って、時機のくるのを待ちかまえていたのだ。見よ、背広の男どもの手には、例外なくピストルがにぎられ、その筒口が盗賊たちに向けられているではないか。
たちまち「ガチャン」と物のこわれる音、ショウ・ウインドウのガラスにポッカリと大きな穴があいた。その穴から背広の男たちが素早く飛び出してくる。
「御用だっ、『黒トカゲ』神妙にしろ」
恐ろしく大時代な叱咤の声が鳴り響いた。現代の警察官にもこの有効な掛け声は、案外しばしば使用されているのだ。いうまでもなく背広の人たちは、明智の手引きで地底に侵入した、警視庁の腕利き刑事の一団であった。
さいぜん明智は、入り口の張り番をしていた北村だけが、なぜ縛られたのか、その意味がわかるかとたずねたが、それは暗に警察官の来援をほのめかしたのであった。入り口をひらかせる合図の信号は、明智から電話で警視庁に知らせてあった。