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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
それならばもう大丈夫だわ。明智小五郎だって、見破れやしないわ」
ボーイたちが立ち去るのを見すまして、隣室の緑川夫人がはいってきて、新弟子の手なみをほめた。
「ウフ、僕だって、まんざらでもないでしょう……それはそうと、このべらぼうに大きなトランクには、一体なにがはいっているんですね」
山川氏は、まだトランクの用途を教えられていなかったのだ。
「ここに鍵があるから、あけてごらんなさい」
いかめしいひげの子分は、その鍵を受け取りながら、小首をかしげた。
「僕のお召しかえがはいっているんでしょう。山川健作先生ともあろうものが、着のみ着のままじゃ変だからね」
「フフ、そうかもしれないわ」
そこで、鍵を廻して、蓋をひらいてみると、中には、いくえにも厚ぼったくボロ布で包んだものがギッシリつまっていた。
「おや、なんですい、こりゃあ?」
山川氏は、あてがはずれたようにつぶやいて、その包みの一つを、ソッとひらいてみた。
「なあんだ、石ころじゃありませんか。大事そうに布にくるんだりして、ほかのもみんな石ころなんですか」
「そうよ、お召しかえでなくってお気の毒さま。みんな石ころなの。