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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
岩瀬氏は緑川夫人の同情のない無駄口に一そうイライラして、明智に突っかかって行った。
「明智さん、わたしは警察へ電話をかけますよ。まさか不服だとおっしゃるのではあるまいね」
彼は返事も待たず、居間の方へよろめいて行って、卓上の電話機を取ろうとした。すると、ちょうどその時、まるで申し合わせでもしたように、先方からジリリリと呼び出しのベルが鳴りひびいた。
岩瀬氏はチェッと舌打ちしながら、仕方なく受話器を取りあげ、罪もない交換手を口ぎたなくどなりつけていたが、やがて、かんしゃく声で明智を呼んだ。
「明智さん、あんたに電話だ」
明智はそれを聞くと、何か忘れものを思い出しでもしたように、ハッとして、いきなり電話機へ飛んで行った。
電話はなんの用件であったか、彼は熱心に受け答えをしていたが、最後に、
「二十分? そんなにかかるものか。十五分? いやいや、それではおそい。十分だ。十分で駈けつけたまえ。僕は十分しか待たないよ。いいか」
という明智の謎のような言葉で電話が切れた。
「御用がすんだら、ついでに警察を呼び出すようにいってくださらんか」
明智のそばに立ちはだかって待ち構えていた岩瀬氏が、イライラしながら皮肉まじりにいう。