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くろとかげ

黒蜥蜴

江戸川 乱歩

「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页

青空文庫

「小さな鏡で、なんだけれど、一つうまく着がえをしてくれたまえ」

と言い残して階下へ降りて行った。葉子はいわれるままに着がえをすませたが、そうして高価な和服に包まれた気持は、決して不快なものではなかった。

「うまいうまい。それでいい。実によく似合ったぞ」

いつの間にか老紳士があがってきて、彼女のうしろ姿に見とれていた。

「でも、この着物にこの髪ではなんだか変ですわね」

葉子は鏡をのぞき込みながら、少しはにかんでいう。

「それも、ちゃんと用意がしてある。ほら、これだ。これをかぶってもらわなくてはならんのだ」

老人はそういって、さいぜんのトランクから、白布にくるんだものを取り出した。それをほどくと、中から無気味な髪の毛の塊まりが出てきた。それは上品な洋髪のカツラであった。

老人は葉子の前に廻って、上手にそのカツラをかぶせてくれた。鏡を見ると、おやっと思うほど顔が変っている。

「それからこれじゃ。少し度があるけれど、我慢してくれたまえ」

そういって老紳士がさし出したのは、縁なしの近眼鏡であった。葉子はそれをも、ひとことも反問しないで眼に当てた。

「さあ、もう時間がない。