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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁
と、までは、云ったが
(逃しましょうか)
と、口先まで出ていた言葉は、殺してしまった。だが、五郎右衛門は、それを察していて、言下に
「ならぬ」
と、云った。足音が、あわただしくして、出雲守が、引締った表情をして入って来た。
「意外なことが――」
「今更、何んとも致し方がない。それに就て、貴公に頼んでおきたいことがある」
出雲守は、女の出した座蒲団を敷いて
「微少ながら、何んなりとも、頼まれ申そう」
「事が、事じゃで、このままで、止むべきではない。直ちに、残りの同志を集めて、再挙して頂きたいが――」
「勿論のこと――」
左太郎は、見知らぬ人を見ても、快活に、手を握り、足を踏んで、嬉々としていた。女房は、客の前で、涙を出すまいとしながら、今宵の内に、死ななくてはならぬ夫のことと、遠島に処せられる、幼い子のことを考えて、出すまいとして出て来る涙を、袖で拭っていた。
「座を設けて、支度をしておけ」
五郎右衛門は、その女房に、叱るように己の切腹の座の指図をした。
「はい」
女は、出雲守に礼をして、立って行こうと、左太郎を抱き上げると、ああ、と叫んで、父親の方を向いた。それは、父と、自分との運命を知っていて、別れを惜しむように思えた。