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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

「では、ご対面は」

「いたすまい」

「ふたりは、がっかりするでしょう。ここを御通過ときいて、ひそかにお会いがかなうかと、愉しんでいたふうですから」

「いまはそんな時ではない。いかに先をいそぐ身かは、御辺がよくわかっているはず」と、言い捨てた。そして「――妙源いるか。引田妙源」

と、ほかを見て呼び、軍の編成について早口にいいつけた。

「ここから加わる佐々木の伊吹兵一千は、二の備えに組み入れろ。――道誉。すぐ行くぞ。二の陣について来い」

軍命として言った彼のことばは、個人を超えたひびきで、もうそれに、私事をさしはさむ余地などなかった。従来の佐々木道誉も、麾下の一部将としてしか扱っていず、またそれ以上には眼の中においてもいない尊氏なのだった。

「はっ」

と、道誉は唯々として去って、中軍から次の隊伍に加わった。それの編入にやや手間どったが行軍はすぐつづけられ、前隊はもう不破ノ関を通過していた。

その間。おそらくは不知哉丸と越前ノ前は、柏原の陣屋のほとりか、寺院の門の蔭にでもいて、よそながら尊氏の通過を見ていたかもしれなかった。しかし尊氏の眸にははいらなかった。またその眸は、それをさがしていたような風でもない。