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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
網引き地蔵
網引き地蔵
鎌倉泉ヶ谷の浄光明寺は、ほんの一堂に庫裡があるだけの、草寺だった。
むかし北条長時が何かの忌縁に建てたものだという。いかにも侘びた禅室ですぐ裏の泉谷山には朝夕鴉ばかり啼いていた。それに時は十一月。枯木寒鴉図そのままな冬木立の中でもあった。
「もどりまいてござりまする」
馬は山門の外に。
駒のあるじは今、旅ぼこりの身もそのまま、すぐ、ここにさきごろから引き籠っていた尊氏のまえにあって、平伏していた。
「和氏か」
待ちかねたぞというばかりな顔である。が、大いに労をねぎらって。
「早かったな和氏。――海道の往復を、こんな日数でもどるには、さだめし道中夜もかけて帰って来たか。大儀大儀。して、上奏文の響きはなんとあったぞ」
「すでに朝議一決のあとにござりましたが」
「うむ」
「上書は、洞院ノ実世卿からただちに叡覧に入れ、僉議の席でもご披露あったやにうけたまわります。が、ついにお返し沙汰は何もございませぬ」
「それでいい。だが、義貞の反応についてはどうだ。聞きおよぶところはなかったか」
「いや、それは大いにございました」
「大いにあったと? ふ、ふ」
予期していたものの手ごたえに、思わず彼の相好が笑み破れた。