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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

魚見堂

が、あれほどな足利勢も午頃には洛中のくまぐまにさえ一兵も影をみせず、遠く丹波境の山波の彼方へ没し去っていたことだけはたしかであり、さらには、まだ諸所の屍もかたづいていないこの生々しい戦塵の中へ、はやくも後醍醐の還幸さえ見られたのだった。

その日は正月の三十日で、尊氏の洛中没落も、園太暦、元弘日記裏書、建武三年記、どれもみな同日の事としているのをみれば、天皇には、「――尊氏、退く」と聞き給うやすぐ、叡山の行宮をひきはらって、

「都にあらでは」

と、即日、御座を洛中へ還されたものとみえる。

まる一ト月の余であった。宮廷すべての大御家族を連れての御動座でもあったから、一日もはやく元の御所へと願う女性たちのせがみも容れての還幸ではあったろう。しかし、敗退したといえ、なお丹波境には、足利勢の蠢動も充分ありうるのを見こしながら、その日すぐ御座を洛中へ還すなどは、よほどなご確信のないかぎり、よくなしうることではあるまい。

しかもである。

「内裏は一時どこへおく?」

と、御随身以外の者はそのおちつく所もまだ知らなかった。――なぜなれば去年お立退きのさい、二条富小路の内裏はすでに焼けうせている。