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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

それからである。尊氏のことばによって、持明院統の院宣ここにわれらへ降る――と、満座へ発表されたものであろう。室山の城もゆるぐばかりな歓声が突然わっとそこで揚がった。

「それっ、船を出せ」

「御使に万一あっては」

と、その席からも、ただちに、数人の将がどやどや駈け出し、介もまた、人々と共に、港のほうへ駈けていた。

つづいて、尊氏以下、諸軍もみな城を出払って、室の港からそれぞれの船へ乗りわかれた。

こうしたうちに、

「おう、見えた」

「御使の迎えに行った船がもどって来るわ」

と、港いっぱいに蕩揺している無数の船影のうえに、どよめきがわいた。

まさしくそれであろう。この夜は二月十六日であったから雲間にはまろい月があり、鱗のような波光のうちを、その一舟とまた一群の船列とが、近づくほどにあざらかとなって来る。

院の御使の船は、まもなく、尊氏の乗船の横へ着いた。すぐ右馬介の介添えで、自船から大船の上へと移った日野賢俊と薬師丸の影は、一とき湾内の者の視線を粛とあつめていた。

はやくも大船の胴ノ間では、むしろを清めて、尊氏が座をただして御使を待ち、直義とほかの諸将も艫へかけて身を一様な敷波にして平伏していた。