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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
――語るのは、いま初めてだが、ゆめ、准后のおねたみを受けてはならぬという兄の注意なのだった。
世にそんな恐ろしいことがと、疑われもし悲しまれて、内侍はそれをしおに病といって後宮へはもどらずにいた。しかし、みかどからは「……いかにせし?」と、そのごも再三なお召である。で、ついにまた入内をやむなくしたが、前にもまして廉子が恐く、また廉子の目もなんとなくほかの寵妃を見るのとちがい、自分へのみはすさまじく思われて仕方がない。そして、ひとの秘密を知ったことの恐ろしさがついにはわが身の患いとまでなっていた。
これにはまた、みかども常々お悩みらしくあって、近ごろはとみに自分への寵幸も衰えぎみとなっていた折……はしなくも「義貞へ嫁け」との御諚であったという。――内侍はそう語り終って、しんそこ、ほっと息をした。
世間は暗かった。洛中、一種の鬼気が深夜になるとただよってくる。
義貞には体でわかる。
豼貅(戦いを好む猛獣)数万の者が、このところ刀鎗の血をぬぐって、いささか休息のため人間社会の中へ返っている。そして戦いなき夜を眠っていた。いやなかなか眠りもしていまい。乾き切った意欲が女を漁り酒を追って、百鬼夜行図さながらに、罪の香を嗅ぎあるいているに相違なかろう。