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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

「敵は?」

と、菊池方のうごきを視野にさがしたにちがいない。

が、この時刻ごろにはまだ菊池勢は博多を出たかどうかの頃であり、その先鋒すらなお、箱崎附近に見えていなかった。

後になってみれば。

じつに、多々羅合戦の勝目と敗けのわかれは、この機微な時間差のうちにあったといえぬこともない。

「しめた」

直義は、躍ッて言った。

「敵はまだ、影も見せぬ!」

一軍を名島に、一軍を蓮華坂に、また一軍は松ヶ崎から陣ノ腰へかけての山上へ、長く横に布陣して、敵を待った。

とはいえこの横陣が、奥行きの浅い薄手だったのはいうまでもない。

総軍、わずか二千余だ。

これを古典の諸書すべてが――菊池方を五万騎となし、足利勢は六、七百騎にすぎず――としているのは明らかなまちがいである。すくなくも二千がらみの兵は尊氏も配置したものとみてさしつかえない。ただ彼が戦わぬ前に稼ぎ取っていた地の利は、やがて、その用兵を十倍にもする効果となっていたのである。

果たして。それから一刻ほど後には、箱崎から多々羅へかかって来た菊池方の大軍がみえ、さすが武敏はすぐ、敵がすでに地の利に拠っているのを見て「しまった」