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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
「これでは果てもありません。万一、かかるあいだに頭ノ殿(直義)が破れ、宰相(尊氏)の中軍も突かれなどしたら一大事です。――まず饗庭が捨て石となって駈け入りますゆえ、ときを外さず、おつづきください」
と、言い捨てた。いうやいな、馬をおどらせて、敵兵の戦列へ猪突して行ったのだった。
きッかけは、かならず一人か二人かの果敢による。あとは、たちどころに、入りみだれての乱軍だった。猛兵というよりは盲兵のすがたである。斬りむすぶというよりは叩き合いだった。逃げる、追う、また取り組む。その上へ、大波が来て、波にさらわれて渚を這う兵もある。
でも、しょせんは、圧倒的な兵力を持つ方の勝利でしかないと見えたのだったが、俄然、ここを契機として多々羅全面には妙なうごきが歴然と見えだしていた。――重厚な総菊池軍のうしろから、いやどこからともなく、
「や、や、おかしいぞ」
「異変だ。裏切り」
という奇妙な絶叫が諸方で流れ、陣は陣自体を寸断して、黒い渦、黒い奔流、まったく秩序を失った猜疑ぶかいただの群集と化し去ってしまったもののようにみえる。
せつな。
これを砂丘の上でみとめた尊氏の眸は、細く目尻で笑ったようだった。