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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
などと走り廻って見ているうちに、どこかで、誰か、
「卯木さま。卯木さま」
と、呼ぶような声がする。
ふと見ると、侍長屋と庭ざかいの垣の外から、金剛寺前の仮面作り師、赤鶴一阿弥が、こちらを覗いているのだった。
「ま……」卯木はそこの木戸をあけて「おめずらしい。赤鶴さまではございませぬか」
一阿弥は小腰をかがめた。
「はい。めったに外へ出ぬ不精者でございまするが、今日は」
「なんの御用で」
「じつは、先日てまえの小屋へ、御領主さまがお立寄りくださいましたせつ、あとで気づいたのでございますが、お忘れ物をしておいでなされましての」
と、一阿弥はふところの物を、捧げるように、卯木の掌へ手渡した。
錦の小さい金入れの巾着で、こがねか銀が入っているのかもしれなかった。たなごころに、ずしりと重い感じがする。
「ほんに、これはおやかた様のお持ち物にちがいありませぬが」
「あなたさまから殿さまへ、よしなに、お返し申しあげてくだされませい。用事というのはただそれだけのことなので」
と、さっそく帰りかける姿へ、卯木はあわてて、
「でも、ちょっと待っていてくださいね。すぐ来ますから」
と、彼女はそれを持って、元の庭のうちへ小走りにかくれた。