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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
還幸の人数は、もう山を離れだしている。――供奉には、吉田内府をはじめ、公卿あらかたと、山徒の道場坊宥覚などもお供して行った。
むずかしい武家側とのはなしあいもまずついた結果なので、准后の廉子から女院、女房たちも、すべて一しょに下山することとなった。したがって列はえんえんとつづき、本間孫四郎や伊達の蔵人家貞などの兵が、先駆から列後までを見つつ順に麓へさがって行った。
その上を、黒い紅葉が、ひょうひょうと舞い降っていた。風も落葉も、すべて、音をなす物は、哀しい悲歌の譜となって、もののふの腸を、かきみださずにおかなかった。
「…………」
義貞は、遠く鳳輦がふもとへ沈み去るまでお見送りしていた。彼のうしろに立ちならんでいた軍兵の列もみな石の兵みたいだった。叡山の上は俄に寂寞な冬を来たし、風は霏々と肌を刺した。
その夜である。義貞は日吉の大宮権現にひとり参籠して、氷のような床に伏した。夜もすがらなにか一念の祈願をこめ、あわせて願文と重代の太刀鬼切とを、社壇へおさめた。
「…………」
ことばには出さないが、過ぐるころ、御影の陣所で、正成と一夜を語って別れ、そして会下山上にあの菊水旗を見、また後に、正成のさいごの様をつたえ聞いてからの義貞には、何かつねに、心に恥じるらしいものがあるようだった。