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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

もちろん、これらの武士は、はやくから吉野や伊勢方面に蠢動していた宮方残党からの派遣者にちがいなく、

「しめた!」

と、そこの暗がりに、妖しい気勢を戦がせていたのもつかのま、たちまち、龍を乗せた一朶の黒雲のように、この一団の怪影は、まだ宵の人通りもあった時刻だけに、かえって、洛内の人目を紛れ、すべて、行方をくらましてしまったのだった。

「や、や。なんだろう」

「お沓の片方だ?」

定例の見廻りが、築土の下に、異状を見いだしたのは、すでに明けがた近かった。

それも、番屋衆では下級の者たちだったので、すぐ、お座所を点検してみるなどのこともせず、やがて遅い番所頭が出て来た頃に訴えたので、時は、充分に過ぎ去っていた。

「た、たいへんだぞ、これは」

「先帝がお見えなさらん」

「侍者もいない」

「しまッた!」

洛内じゅうは、当然、かなえの沸くような大騒動になった。

この突発事で、とくに緊迫した混雑を呈したのは、三条錦小路の辺で、当然、それは直義のいる一殿から庭上にまでおよんでいた。

彼が、自邸で、

先帝の逃亡――

と、事の変を知らされたときは、すでに陽も高く、責任者の警固がしらや篝屋番の武士などは、もう首のない人間みたいに、階下の地上にヘタ這っていた。