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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

もちろん、尊氏は理くつをならべ、朝命に畏みますまい。そのさいは、ぜひもございません」

忠顕は言った。

――義貞をさし向けて討ち取るべきだという意見である。

すでに直義は東国でやぶれた敗残の将、尊氏は六波羅をすてて途中にある無拠地の旅軍、これを追ッて討つのは容易だともいうのだった。

「だがの」

ここは待たれよ、とする上卿たちの声もつよい。彼の無断東下が、さまで不逞不忠な罪といえるだろうか。朝命を待たず戦争におよんだ例は、古来、たびたびある。――後三年ノ役の源義家、前九年のさいの頼義、みなそうだった。――いつ降るかわからない朝命を待っていたら、戦機、とり返しがつかぬ大事にたちいたるからである。

尊氏のこんどのばあい。

尊氏からいわせれば、そうも主張できようか。武士の間には、「軍中将軍ノ令ヲ聞クモ、天子ノ詔ハ聞カズ」ということばすら信ぜられているものを――と、上卿の老公卿は危ぶみ、また、名分の稀薄を指摘するのだった。

こんな論議のうち、いつか午すぎてもいたのに、

「在京の武門、あまたな武士ども、足利宰相のあとを慕い、なおぞくぞくと都を離れ出て行きます」

と、刻々その動揺ぶりは宮廷内へも聞えてくる。