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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁
庄吉は、階段の板を踏んで、音の立つのを恐れた。
(太夫、高座まで、控えさせまあーす)
と、口の中で、云いながら、頑丈な、手摺へ跨がって、やもりの如く吸いついた。そして、一寸ずつ、二寸ずつ、その都度、四辺の人の気配を窺いつつ、静かに、音も無く、滑り降りて行った。
庄吉は、暫く、階段の下へ蹲んでいたが、黒い布で頬冠りして、尻端折になった。柱行燈の灯が、遠くに、ほのぼのとしているだけで、ここから、調所の部屋までは、廊下だけであった。真暗な、闇だけであった。
壁へ、身体をつけて、横に伝って、供部屋の様子を窺った。小さい、鼾の外に、何んの音もなかった。庄吉は、耳を澄ましつつ、静かに、供部屋の前を、這って通った。そして、板の臭、壁の臭を嗅いで、さっき、酔った振りをして、見定めておいた、調所の部屋の前まで来て、詰めていた呼吸を少しずつ吐き出した。
(やり損えば、首は提灯屋へ売って、胴は蒟蒻屋へ御奉公だ。南無天王様、観音様)
濡れ手拭の水を、敷居へ流し込んで、じっと、内部の気配を窺っていた。咳も無く、音も無く、鼾も無かった。顔が、ほてって、心臓が、どきどきしてきた。