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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

「斬られた声でしょうな」

玄白斎は、答えないで、下の方へ歩き出した。

「四辺に気を配って――油断してはならん」

玄白斎は、脚下の岩角を、たどたど踏みつつ、和田に注意した。

「今のは猟師でしょうか」

「そうかも知れぬ」

二人の脚音と、衣ずれの外、何んの物音もない深山であった。あんな大きい、凄い悲鳴が起ろうとは、神も思えないくらいに、静かであった。

二人は、声がしたらしいと考えた場所へ近づくと、歩みを止めて、四方を眺めた。そして、小声で玄白斎が

「この辺と思うが――」

と、振返ると

「探しましょう」

和田は、肩から掛けていた薬草の採取箱を卸そうとした。

「下手人が、未だ、うろついておろうもしれぬ。用心して――」

和田の置いた箱のところへ杖を立てて、玄白斎は、草のそよぎ、梢の風にも、注意した。和田は、杖で草を、枝を分けながら、薄暗い木の下蔭へ入って行った。玄白斎は

「径から、余り遠いところではあるまい」

と、背後から、声をかけた。和田は、小径を中心に、左右の草叢へ、森の中へ、出たり、入ったりしていたが、暫く、身体が見えなくなると

「先生、先刻の猟師です」

落ちついた大声が、小半町先の草の中から起った。