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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
半さんは、その鉄眼の弟子となり、多年、苦難を師と共にした。路傍に立っては、山師と罵られ、門に立っては、水をかけられ、嘲罵、迫害、飢寒、あらゆる行を共にした。その鉄眼はまた、飢饉の年でもあると、そんなにして集めた大蔵経のための浄財を投じて、買えるだけの米を買い、大坂、京都、江戸の三都で、飢民を救った。
鉄眼が、大往生をとげた後も、半さんは、救民の草鞋を解かなかった。
寺におさまれば、当然、住職ともなれように、半さんは、十数年来、いまだに樹下石上をつづけてきた。世は、お犬様時代、人間が人間にあいそをつかし、牢舎は罪人に埋められ、路傍には、浮浪者の群れのみちているこの現世地獄を――そのままわが住持する寺なりといって――寒暑もなく、師鉄眼のやった通りな血みどろの勧化をつづけ、その布施を蓄えては、盆正月ごとに、江戸にあらわれ、貧しき人々をあたためて、また諸国へ去るのであった。
彼が、語らなくても、浮浪者たちは、いつか知って、語りつたえ、それらのことを知らない者はないくらいである。
で、今夜も――
こうして大焚火をかこみつつ、彼等は、粥が煮えるのを待ちながら、時には法話に耳をすまし、時には、女ばなしに笑いあい、また時には、同苦坊の身の上なども、訊いたりして、正月の夜の楽しみを満足しきっているのだった。