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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁
九蔵も踏んだ。家橘も踏んだ。小団次も源之助も踏んだ。粂八はその舞台に乗り込んで、岩井米花、松本錦糸、市川寿美八、沢村紀久八などという顔触れで、女芝居を興行していたのであった。わたしたちの招待日は三月二日で、芝居は午前九時開場、狂言は「廿四孝」と「山姥」と「お染久松」とで、粂八は八重垣姫と山姥を勤めていたが、どちらの役も無論に団十郎張りであった。彼女は多年立役を勤めていて、その女らしい声を失っている上に、努めて団十郎の仮声を使おうとする結果、その調子は太く濁って、すこぶる聞き苦しいものであったが、八重垣姫に扮した舞台顔はたしかに美麗で、優雅で、その音声から受ける一種の不愉快の感じを打消すに十分であった。彼女はその頃おそらく四十を越えていたのであろうが、晩年に比べると殆んど別人かとも思うほどに美しいものであった。先年市村座で見せられた団十郎の八重垣姫も無論すぐれたもののように記憶していたが、今になって考えると、どうも粂八の方がすぐれているらしいと私はその時に思った。舞踊はその得意であるだけに、山姥も、また立派な見ものであった。粂八の名はかねて聞いていながら、その舞台を今日はじめて見物して、なるほど東京唯一の女役者であるということを私もたしかに承認した。