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めいじげきだん ランプのもとにて

明治劇談 ランプの下にて

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁

青空文庫

前にもいった通り、わたしは本所の寿座で、家橘の与三郎、源之助のおとみ、伝五郎の蝙蝠安を見たことがあるが、いわゆる持味で、与三郎の体に持っている自然の柔かみには他人の企て及ばないところがあった。兄の菊五郎も歌舞伎座でおなじく与三郎を演じたが、これも弟には及ばなかった。晩年の家橘は和事師から抜け出そうとして、熊谷や、鱶七や、大岡越前守や、そういうたぐいの役々を好んで演じていたが、いずれも団十郎張りであるという好評で、やがては大立者となるべき鷹揚な芸風であったのを、急性腹膜炎のために四十七歳で死なせたのは残念であった。

わずか三月経たない間に、黙阿弥をうしない、家橘を奪われ、二つの大劇場を焼かれたのであるから、この年はわが劇界に取って怖ろしい厄年であったに相違ない。まだその上に中村芝翫は一月二十五日、美濃の多治見の旅興行先で、法界坊の宙乗りを仕損じて舞台に落ちて、右の足をくじいた。幸いに全治したが、その後は右の足が自由を欠いて、舞台の上では幾分か跛足をひくようになってしまった。

その年の九月、歌舞伎座では団十郎、市川権十郎、福助、片岡市蔵らの顔ぶれで開場した。