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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁
に養父歌右衛門と共に江戸へ下ったのであるという。はじめの名は玉太郎で、それから福助となり、芝翫とあらためたのであるが、弘化の初年から慶応の末年にいたる二十余年間は、実にかれが人気の絶頂で、名人といわれた、かの市川小団次すらもその人気に圧倒されて、一時は江戸を見切って大阪へ引揚げようと決心したと伝えられるほどであった。小団次がすでにそれであるから、左団次は勿論、団十郎も菊五郎もその青年時代においては彼の敵でなかった。
芝翫はその隆々たる人気を背負って、明治の世界に乗込んで、やはり一方の座頭株と認められていたのであるが、明治十年以後――いわゆる新富町の全盛期になると、東京劇壇の覇権はいつか団菊左の手に移って、かれは自然その次位に置かれることになってしまった。彼ばかりではない、狂言作者のうちで、かの三代目瀬川如皐や三代目桜田治助のごときも明治以後は一向に振わなくなった。所詮その芸風や作風が明治の観客の好尚に適しなくなったのであろう。
そうは言っても、かれに今一段の覇気とか活気とかいうものがあったならば、かの七代目団蔵の末年とおなじように、古典劇の名手として一部の賞讃を博し得たであろうが、彼はすべてにおいて余りに無欲恬淡、殆んど一種の仙人か子供のようであったらしい。