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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁
かれは幼年時代に木から墜ちてその頭を強く打った。その以来、一時は癲癇のような症状をつづけたことがあるとか伝えられているから、幾分かその頭脳に故障を来たしていたのかも知れないが、かれはその当時の芝居道において殆んど絶無ともいうべきほどの無欲、温厚、篤実の好人物で、一切の世事にうとく、金の値さえもよくは知らなかったということであるから、褒めていえば名人気質、悪くいえば水平線以下であったかも知れない。それにもかかわらず、前後二十余年間、江戸劇界の人気を一身にあつめていたのを見ると、かれは一種の天才であったとも言われる。その天才の所有者も前に言ったような性質から、変遷の急激なる明治初期の劇界からは自然に遠ざけられる傾きになった。新富座の経営者にして極端な進歩主義を取っていた守田勘弥のごときも、彼を味方として劇界の進歩を図ろうなどとは思わなかったらしい。
かれが舞踊の名手であったことは有名の事実で、その点においては団十郎と芝翫とが劇界の双璧とたたえられていたが、やはり頭が悪かったせいであろう、かれは江戸時代から台詞の記憶が悪い点においても有名であった。したがって、きまり切った時代物は格別、新作物などになると当人も困った。