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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁
定刻の午後五時ごろに松浅にゆき着くと、接待として市村門下の坂東あやめが待ちうけていた。あやめのことは前に書いた。わたしと前後して、各社の諸君も大抵来会したのであるが、主人側の家橘が顔をみせない。茅ヶ崎の容態が悪いので、朝からあっちへ見舞に行っているのですと、あやめは頻りに言い訳をしていた。
団十郎の模様がよくないということは、これまで新聞紙上にも伝えられて、世間でもみな知っていた。わたしたちはむろん承知していた。今度こそ再び起つことは覚束ないという情報をも握っていた。それだけに今日のあやめの話がいよいよ胸にこたえて、堀越もいよいよいけないのかという嘆息まじりの会話が諸人のあいだに交換された。我々の予覚が現実となって、「春日局」が遂に最後の舞台となったことなども語られた。なかには自分の社へ電話をかけて、団十郎いよいよ危篤を通知する人もあった。
涼しいのを通り越して、薄ら寒いような雨の日は早く暮れて、午後六時ごろには大森の海もまったく暗くなった。フロックコートを着た家橘があわただしく二階へかけあがって来て、挨拶もそこそこに、どうも困りましたという。かれは茅ヶ崎から駈けつけて来たのであって、団十郎はきょうの午後にとうとう死んでしまったということを口早に話した。