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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁
但しそれは新富座のことで、それより一格下がった他の劇場では、平土間一間一円五、六十銭から一円七、八十銭ぐらいが普通であった。
この俳優の共進会には、わたしの家内の者も例によってみな見物に行った。それが日曜日であったにもかかわらず、わたしは一緒に行かなかった。「霜夜鐘」の正本以来、わたしは芝居の正本や筋書を読むのを好むようになったが、どうも普通の芝居見物にゆくのは気が進まなかった。わたしはやはり一人で留守番をして、おみやげの幕の内か口取の折詰めでも貰って、母や姉の口から芝居のはなしを聴かせてもらう方がむしろ楽しいのであった。
そこで、そのときも母や姉のみやげ話を聴くと、芝翫の武田信玄や、団十郎の上杉謙信や、菊五郎の山本勘助や、左団次の鬼小島弥太郎と旗持大蔵や、どれもみな立派なものであったらしかった。それはその後にも各座で上演される「川中島東都錦絵」で、今でもこの狂言の噂を聞くたびに、わたしはそぞろに幼い昔が懐かしく思われてならない。わたしはその時ようよう十一歳の小学校生徒で、年のわかい女中とたった二人で留守番をしながら、格別にそれを寂しいとも思わないで、六月末の暑い一日を自分の家の庭に遊び暮らしていた事をまざまざと記憶している。