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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁
四目垣の裾には赤い百合が幾株も咲いていた。わたしは飛んでいる虻を追おうとして、竹切れでその花の一つを打ち砕いてしまった。となりの長唄のお師匠さんの家では、日曜日でも稽古三味線の音がきこえた。来月の七夕には何か色紙を書くのだと言って、女中は午後から一生懸命に手習いをしていた。それに釣り込まれて、わたしも午後から机にむかって教科書を読みはじめた。こんな思い出がそれからそれへと湧き出して、これを書きながらも私はなんだか涙ぐましいような心持になるのである。
このときに、団十郎の弟新之助が大阪から戻って来て、市川海老蔵の名を継いだので、「川中島」の狂言のなかで団十郎と菊五郎とが猟夫になってその改名の口上を述べ、海老蔵が山賊になって山神の社からあらわれて、柱巻きの見得をしたとかいうことであった。この海老蔵はとかく多病で、舞台の上ではあまり捗々しいこともなく、それから四、五年の後――明治十九年の冬と記憶している――この世を去った。その葬式の当時、兄の団十郎はわたしの父にむかって、「弟は早く役者をやめさせて、もっとたくさんに本をよませて、狂言作者にすれば好かったのでした。