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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

にもかかわらず、洛内の危機感は、刻々、不気味さを濃くしていた。玉座をまもる侍臣のあわてふためきも度を過ぎてはいたが、このさいの、

主上、山門へ御動座

の措置は、よくよくなことだった。窮余の急、やむをえなかったともいえようか。

こんな例は、平家都落ちのむかし、木曾義仲の侵入にあたって、一時、後白河法皇が叡山へ難をお避けになったあれ以来のことである。しかも後白河のばあいは、源平両勢力の上になお中立的な余地を残しておられたが、こんどはそうでない。――後醍醐はその経過やら綸旨の上からも、御自身、軍の御指揮者たるのかたちで、公卿すらも弓箭を取って陣頭に出ていたのだった。

だからおなじ蒙塵(天子の御避難)でも、今日の恐怖は、往時の比ではない。――賢所の渡御(三種ノ神器の移動)を忘れなかったのがやっとであった。――日ごろ、紫宸、清涼、弘徽殿などになぞらえられていた所の一切の御物――また昼の御座の“日の簡”、おん仏間の五大尊の御像、后町のきらびやかな御簾ごとの調度なども――すべてそのままお立退きのほかなかった。

それから、まもなく。

これらの巨大な洞窟の宝財はチラチラと煙のなかに静かなそして妖しいばかり美しい火を持ち出していた。