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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

「この勢いで、洛中へ突きすすめ!」

と、はやくも次の段階へ指揮を振るッていたものだった。

そして味方一同の勝ち誇りにも、

「まだ、早い」

と、勝鬨も揚げさせていなかったほどなのである。

が、諸軍はとにかく、北畠顕家の奥州勢は、ここの行宮に着いてからさえ、休息なしに参加していた長途の兵なので、

「余りにも……」

と、その疲労を思いやる声もあった。けれど義貞は、

「いや、ここで弛むより、洛中の一ヵ所を占領して後、ゆるりと草枕に休むがいい。逢坂越えはあと一気ぞ」

と、耳もかすことではなかった。またすでに暮色の頃なので、兵に腰兵糧を摂らせようとする諸将もあったが、

「すべて次のさしずを待て。もし飯を食ってなどいる間に、洛中の尊氏、直義が大挙してこれへ来たら、三井寺の一勝も、またたちどころに水の泡となる。この勝ちを、勝ちとさだめるまで、少々我慢させい」

と、これをすら無視して、全軍すぐ前進に移っていた。だからその迅さには、山科にいた高ノ師泰の一陣さえ、ひとたまりなく一掃されてしまい、三井寺の崩れの中へ、さらに敗走兵を大きく加えて、ごった返しに、三条口までの坂道を、黒い流れが、逃げおめいて行った。