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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

と、なぐさめた。

尊氏は、大きにさようだと、うなずいて、

「負けもよし。ふかく思えば、きのうまで勝ってばかりいたことのほうが、むしろ不吉だった」

と、左右へ言った。

その朝(二月三日)の情報によれば、官軍は西山峰ノ堂から大江山ぐちまでは追ってきたが、以後は見えないとのことだった。さらば行けと、尊氏は裏丹波を西へさして行った。

尊氏の行くての先は兵庫であった。山陽道と四国をむすぶ兵庫を無視して勝目はないとしていたからだ。

その兵庫への道を、彼の落ちてゆく残軍は、裏丹波の三草へとった。この道は寿永のむかし、源義経がひよどり越えを突いて出たときの間道である。おそらくは尊氏、直義、敗残の将士、たれの胸にも、なにかの感慨がなくていられなかったろう。

いま向ふ方は明石の

浦ながら

まだ晴れやらぬ

わがおもひかな

尊氏の歌である。

彼が三草越えの途で詠んだ歌として歌集「等持院殿(等持院は尊氏の院号)百首」のうちに載っている一つである。おもうに三草の山間のまだ残雪もまだらな道を疲れた馬にゆられつつ行く途中でふと矢立の筆をとってたれかに示したものではないか。

だが、この歌の意味は、どうにもとれる。