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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
筑紫びらき
筑紫びらき
「これまで」
と、尊氏は見切りをつけて、ついに船へ移った。いや逃げたという方がここではただしい。
ただの陸地における総退却にしても、いわゆる“負け引き”には非常な危険がともなうといわれている。ましてこの折の足利勢がまたまた、大混乱におち、おびただしい犠牲を浜のなぎさに捨てたのはぜひもない。
かねて大小の兵船三百そうの用意はあったが、
「すわ、大殿には海上へ移られたぞ」
と、おめきあって、われがちに船へなだれこんだ一ときの騒ぎは言語に絶していた。うしろには早や官軍がせまっていたし、殿軍とても、すでに戦意はくずれていたことだった。
溺れ死ぬもの。あるいは、敵に捕われる者数千。余りに一そうの内へ人や馬が混み乗ったため、満載のまま、くつがえる船さえあった――と古典はその惨状を写すに文字を惜しまずつかっている。
尊氏もいまは、非情に、
「つづく者はつづいて来よう。わが船よりまず帆をあげて西へ急げ」
と、船手の者を、せきたてた。このさい、時をかせば、官軍方にも四国の兵船二百余そうがいたのである。海上で包囲されるおそれも多分にあったのだ。
それゆえ、掩護の船列も布いたろうが、とうてい、秩序のある船出などではない。