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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

後醍醐は御酒がおつよい。諸卿はみな知っているが、義貞は正直におあいてしていたので、ついに酔いつぶれてしまったらしく、やがてふと気づいたときは誰もみえない朧夜の一殿だった。のみならず、目をさますとすぐ楚々と薬湯をささげて来てやさしく気分を問うてくれた一女性がある。

更衣とか典侍とかよばれる深宮の女性にちがいない。いよいよ恐縮して、義貞は半ば夢心地で薬湯をおしいただいたが、あたりの花明りに、ふと、そのひとの顔を見たせつな、

あ、草心尼?

と、叫びかけて、おもわずはしたない驚きの目をしばらく彼女の花顔から離しえなかったものだった。それほど彼女の眉目は若き日のかの草心尼に似て美しく眩くもあった。

忘れかねて。

そのご、このことを忠顕にもらすと、忠顕がまたそれを、みかどのお耳へ達したらしく、みかどのおことばとして「――左中将がそれほど忘れかねる女なら、左中将へつかわしてもよいの」と、仰せられたということだった。――それもまた煩悩の身には、忘れかねるみことばではあった。

まさか。

よしんば、帝がほんとにそう仰っしゃったにしろ、女を賜うなどとは、かりそめのお戯れにちがいない――