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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

正成は、豆に代って、豆の怨みを御簾へ暗に訴えていたのだった。――たしかにそれはここの人々をして、暗鬱な反省の一瞬には立たせていた。――が、その一瞬がたつとすぐ、

「だまれ、無用な雑談」

と、公卿のひとりが、こう自己を晦ます逆作用にまかせて烈しく発言していた。

「知らぬか、廷尉。――大義親ヲ滅ス、とあるのを。異朝でもそれが新しい朱子の学として奉じられておる。遠い魏朝にあった故事などは早やカビ臭いわ。……いや、坊門どの」

と、その公卿は、おなじ列にある清忠のほうを見て。

「さだめしお上におかれても苦々しゅうおわせられましょう。微賤な一廷尉の分際が、かくも長々と、愚言を奏したてまつろうなどとは、たれしも夢思わぬことではあったが、賜謁をお取次いたした奏者のつみも軽くない。……ま、ともあれ、早や御立座をねごうてはいかがでしょうか」

「ウむ」

と、清忠が、玉座へむかって、笏を正しかけたときである。後醍醐のおひざも、すっと同時にお立ちになった様子が、簾の下からうかがわれた。

正成は、おもわず、

「……あ」

と、両手を下へつかえ直した。なろうものなら、その手は、帝のおん衣のすそにすがりついて、なお一ト言の御諚をと、おせがみしたかったに違いあるまい。