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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

「抜かりがあろうか」と、武敏は笑って――「布置は今朝から武敏の胸には描けている。きょう、これより筥崎ノ宮に戦捷の報をささげ、なお尊氏討伐の祈願をこめる」

「は」

「去って、多々羅の浜へ出、さらに北へ一里、名島から松ヶ崎の高所を見たてて旗を立て、あの附近を本陣としよう。――そして武敏の床几場を中心に、蓮華坂から八田、土井方面へまで、わが二万余騎を扇なりに展開して待つ」

「さすがは!」と、寂心は賞めそやした。「早やお胸にそこまでの御寸法があるものを、いらざることを申しあげました。仰せのごとく、鎧袖一触、もはや恐れるものはございませぬ」

北風はいよいよ強い。

あたりの陣幕を吹き捲くり、その一端の裾が、武敏の半身へも、うるさく絡みついてくる。

「伝令。阿蘇どのを呼べ」

と、そこの床几の声だった。

旗本の一騎は、黄旗をえびらに挿して、すぐ飛んで行った。

風に攫われた黄旗が地に捨てられてゆく。――まもなくまた、阿蘇惟直と一族の惟澄が伝令と共に陣幕へかくれた。

ほか、菊池の一族重臣もみな呼ばれ、武敏と秋月寂心を中に、砂風の中の立ち話みたいな忙しい一会議がそこでおこなわれた。