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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

……和上、そのような美酒をわれらへひとつ馳走して給わるまいか」

「いとおやすいことにござりますれば、しばしお待ちのほどを」

「おう急がいでもよい」

軍議はそれのしたくが出来るまでのあいだにすすめられていた。すでにあらましは船中できまっていた事項でもある。

すなわち、ここまでは、水軍編成に集中してきたが、はや備中は目の前に来ている。備中福山ノ城もあぶないといわれ、笠岡、玉島の辺にはすでに敵、新田方の先駆が、見えつつあるとの情報もある。――で、どうしても上洛の東上戦略は――海陸軍が二タ手となって併せ進んで行くのでなければならなかった。

やがて、酒が出る。――ヒタと、軍議の声はやんで、寺僧の一人へ、尊氏が言っていた。

「……寺僧、硯と料紙をかしてくれい。一つ二つではこまる。杯の数ほど、硯もたくさんに」

「ほ。お硯を」

「ウむ。なるべく多く」

「かしこまりました」

「いや待て」

と、尊氏はその寺僧へ、

「和上の道謙にも、これへまいって、共に、連歌をして遊ばぬかと申すがよい」

と、言いやった。

さてはこの座をそのまま連歌の会とするおつもりであったのかと、直義やほかの諸将もやっとその意が解けたふうだった。